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追悼・高橋幸宏

1992年生まれの僕がYMOを聴き始めたのはいつだっただろうか。もう正直思い出せない。
幼い時からライディーンやテクノポリスのあの象徴的なメロディを認識していたはずだし、幸宏さんが作った曲は早い段階から僕の人生に入り込んでいた。
人生にしっかりと入り込んでしまった音楽について語ると、それはどうしても私的な話になってしまうのだが、私的なブログという場だからこそ、そういう話を胸を張って書きたいと思った。

小学生、中学生の頃の僕は初期YMOが好きだった。
1stアルバムの楽曲”COMPUTER GAME”の名の通り、ある種の懐古主義的な位置づけの、ゲーム音楽の元祖としての親しみ易いサウンドとメロディを感じ取れたからだ。
ファイナルファンタジーの楽曲を聴いて「プログレッシブロックっぽい」と感じるように、YMOのことを「ゲーム音楽っぽい」と当時は思っていた。時系列的には逆なのに。
それはクラスに馴染めない僕のような根暗を癒やすサウンドでもあった。
「電化量販店でYMOの楽曲を集団弾き逃げ」するあの有名な動画を見てほしい。彼らはまさにヤマダ電機向ヶ丘店に展示されている安物のキーボードでライディーンを弾いていた、あの頃の僕の写し鏡なのである。

大学に入学してから高橋幸宏さんの音楽に僕は絶大な影響を受けるようになる。
僕が入部した、部員が男しかいないフリーペーパー制作サークルに、ムーンライダーズと新井英樹を猛烈に愛する素晴らしい先輩がいた。
その先輩が貸してくれたのが加藤和彦のヨーロッパ三部作と、高橋幸宏の「ニウロマンティック」だった。
この「ニウロマンティック」が本当にカッコ良いアルバムだった。
リズムボックスに絡むタイトなドラムが鳴り響き、幸宏さんがアタック遅めの艶っぽい声で歌い上げ、豊かでメランコリックかつオリエンタルなシンセサウンドが渦巻いていた。
大学の通学で、町田駅の小田急線と横浜線を乗り換える時に通る道で、何度も”Drip Dry Eyes”と”New (Red) Roses”を聴いた。
僕がいかにシンセポップとニューロマンティックというジャンルを愛しているのか強く自覚させてくれたアルバムのタイトルが「ニウロマンティック」というのは、なんだか幸宏さんの術中にハマってしまったような気持ちだったが、何より素晴らしい作品に出会えて当時は本当に嬉しかった。
Japanやデヴィッド・シルヴィアン、ビル・ネルソンのアルバムを本格的に聴くようになったのもその頃からだった。

おしゃれでタイトなサウンドの中で、”弱い男”を代弁し、失恋が似合う幸宏さんの楽曲がとても好きだった。
“Drip Dry Eyes”も”回想 Flashback”もあんなにカッコいい曲なのに題材は失恋だし、ひたすら「生きたくない」とネガティブな事柄を列挙することで無気力状態を受け入れる、最高に元気が出る”空気吸うだけ”、弱気ながらも会えない人に思いを馳せる”元気なら うれしいね”は聞く度に涙が出るほど赦されたような気持ちになる。
こんなに優しくてカッコいい音楽はそうそう世の中にはないと思う。幸宏さんの楽曲はこれからも多くの人の心を慰め、癒やしてくれるのだろう。

大学生時代の僕はバイトの金をすべてフランク・ザッパのCDにつぎ込んでいたため(ディスクユニオン町田店さん、その節はお世話になりました)、フジロックに代表されるような、交通費や宿泊費が掛かる大型音楽フェスに行く金がなかった。
それでも都内で開催される幸宏さん主催のワールドハピネスには、そんな僕でもなんとか観に行けた。
ワールドハピネスに誘ってくれたのも例のサークルの先輩だった。
弟・堀込泰行が抜けた直後の非常にカオティックな新生KIRINJI、Liberty&Gravityをシングルで発表した直後の非常に面白かった時のくるり、YMOと同様にニューウェーブ時代のレジェンドとして尊敬するヒカシュー、台風による強風で演奏中止となったNo Lie-Senseが撤収した後、強風吹き荒れる中登場し、観客を熱狂の渦に巻き込んだ電気グルーヴ、真夏に聴くスチャダラパーの「サマージャム」、当時氷結のCMでやたら流れてた「Paradise Has No Border」を2回演奏しちゃう東京スカパラダイスオーケストラ(来日公演でロックバルーンは99を4回演奏したニーナみたいなエピソード)など、記憶に残る演奏を沢山観ることができた。
でもやっぱり、一番の思い出は2013年のTHEおそ松くんズかな。
坂本龍一、小山田圭吾、鈴木茂、小坂忠、小原礼、奥田民生、矢野顕子、鈴木慶一、大貫妙子などの豪華メンバーに加えて、伊武雅刀と小林克也が出てきてあの「咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3」を歌ってくれたのが最高に楽しかった。
老若男女問わずゆったり観れるあの素晴らしいワーハピの空間は、幸宏さんの人徳が生み出した、実に貴重な存在だったと思う。

幸宏さんの人徳が、YMOの坂本・細野というあの強烈な個性を繋ぎ止めていた。メンバー全員が才能のあるミュージシャンという点でYMOとビートルズが似ていると指摘されることがあるけれども、一番ビートルズに似ていたのはリンゴ・スターの人徳と幸宏さんのそれだったのではないかと思う。
NHKのソリトン・スペシャルで幸宏さんは「坂本龍一は奇才、細野晴臣は天才で、僕は凡人。彼らの仲を取り持つ太鼓持ちとしての役割が僕のすべて。」と言っていた。
あのドラム技術とボーカルとソングライティングの技量を持っているミュージシャンが凡人のはずがない。絶対にありえない。むしろ偉才と言っていいでしょう。
でも僕は、いつも腰が低くて謙遜する、でもしっかりと自分を持っている、そんなやさしい幸宏さんが本当に大好きでした。

高橋幸宏さんのご冥福をお祈りします。

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